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――「おれみたいな息子ができるとは、全くどうかと思ふよ」
「おれと息子とはちがふ。息子は自分の力でこんな風に立派になつた。おれはうれしくて仕方がないが、まあおれは自分の坐り慣れたところにこのまゝ坐つている方が気楽だ。医者の父親なんてものより、元のまゝの老百姓で結構だ」
徳次は人の好い、いかにもさう信じこんだやうな眼で二人を眺めた。
「さうだ」
こんな風でありながら、盛子は小ざつぱりと身ぎれいで、いつの間にそんな雑用を片づけるのかと思はれるほどだつた。いくらか背高ではあつたが、その身体つきにはふしぎな柔味が感じられた。それは娘の頃のまとまりのない柔さではなく、成熟した靱しなやかな柔味だつた。彼女自身はさういふ結婚後の肉体上の変化に気づかなかつたが、それは無意識のうちに感じている房一との結婚生活の幸福さを意味するものだつた。
むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。
二人は岸に着いた。
「ふむ、ふむ」
――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。
盛子は上から見、下から見しながら、
「その首はどんな顔をしていた」と、友達のひとりが訊いた。
練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。