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    と、房一は急いで頼んだ。加藤巡査は一瞬、不安な面持をした。が、房一の態度が決然としていたのと、急策としてはそれより他にないことも明かだつたから、直ちに承諾を与へた。

    今さつきまで誰もいなかつた通りの、ずつと先きの方から黒い人影が歩いて来るのである。袴をはいて小さな風呂敷包か何かを抱へている、そのやはり背高な、直立したまま急ぎ足に歩く恰好はまぎれもない町役場の書記の今泉だつた。

    彼はそれを云ひに来たのだつた。

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    上下のシャツだけといふ奇妙な恰好で房一が台所に降りかけた時、はじめて彼はそこに誰か立つているのに気づいた。

    練吉は盃を口にふくみながら答へた。

    「や、これは。高間さんですか。お久しぶりで」――「お忙しいですか」

    「や、ありがたう」

    「ジョン、そら!ウシ!」

    例の奉祝行列のお終ひに小谷から慰労宴をやらうと云はれたときに、房一は道平が練吉の診察を受けたまゝになつているのを気にかけていたことを思ひ出し、練吉をも加へて小谷と二人を招待しようと云つたのだが、小谷はそれはそれ、これはこれと云つて聞き入れなかつたので、改めて今二人を料亭染田屋に招いたのであつた。

    ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。

    見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。

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