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河原町の人達は皆自家の仕事をはふり出して川に出ていた。彼等の悉くがこの時期には漁師になつたかのやうであつた。まるで諜しめし合せたやうに同じ麦藁の大きな帽子をかぶつて、白いシャツを着こみ、魚籠びくと追鮎箱とをガタつかせながら、めいめいの家の裏口から河原に現れるのだつた。
房一は手足を洗ふと、簡単に診察着をひつかけて表へ廻つた。
私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。
急いであたりさはりのない返事をすると、今泉はもう隣りの人の方を向いて挨拶をした。
「やあ、しばらくで」
男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。
盛子は妊娠していた。
「なあに、後から来るのんはほんの擦かすり傷みたいなもんやから、大事ありません。――時にせんせい、何んぼ差上げたらえゝでせう?」
「いやあ、全く」
徳次は答へることができないで、又あの不器用な笑顔をつくつた。それから、船がごとんと岸に突きあたるはずみに、房一の前にとび降りると、突拍子な調子で
「フム」
突然はじまつたこの二人の親密な往来を、小谷は苦笑しながら、半ば無関心で眺めた。女といふものは妙なことから仲よくなるものだ、と思つた。が、由子の口から盛子のことを聞くにしたがつて、彼は高間医院について満ざら他人でもないやうな気に自然となつた。
「よし。今行く」