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きよろりとした眼でしきりと家の中をのぞきこみながら、しばらくして
「おとうちやん、どこへ行くの」
「これからどちらへ?」
「いや、何もしたといふわけぢやない。これから先きのことだよ。かゝり合つちやいかんと云ふんだ」
房一には連れが二人あつた。
練吉は意外なことを耳にしたといふやうにちよつと房一を眺めたが、熱心に聞いていた。
と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、
「ちつとも知りませんでしたよ」
「徳さん、君は草履ばきぢやないか」
声をひそめて、富田が訊いた。
今や、それらのことは遠くなつてしまひ、他愛のない子供の日の思ひ出でしかなかつた。練吉は両親の希望通り医者になつていた。しかも、事あるたびに、この幼時に押へつけられた日の悲しみが突然、練吉の中に溢れ、それは永い間に積つた憤りのごとく、彼の運命の唯一の手違ひだつたごとく、彼の不身持の云ひわけにもなり、又正文への訴へといふ一種矛盾した形となつて現れるのだつた。
「わたしはね、こいつは割れさうだなと思つたもんでね」と、笏で自分のはいている木沓を指して、
「誰?相沢の知吉さんかね」